エイズ対策とセックスワーカー

2026.03.31

NSWP(Global Network of Sex Work Projects)やAPNSW(Asia Pacific Network of Sex Workers)に代表されるように、海外では多くのセックスワーカー組織がエイズ対策をきっかけに生まれてきました。日本のSWASHもまた、厚生労働省(当時は厚生省)の疫学研究班に協力するため1999年に結成され、エイズ対策と深く結びついた活動を続けてきました。

セックスワーカーのためのエイズ対策に焦点を当てた厚生労働省の研究班は、2010年代前半に一度途絶えたものの、梅毒感染の拡大を背景に、2010年代後半から再び立ち上がりました。これを受けて、SWASHも研究班との協力体制を再構築し、2020年にはHIV/AIDS・性感染症の予防啓発を主な目的とするセックスワーカー向け情報サイト「赤い傘」を開設しました。

その後、2023年から新体制となった研究班では、MSM(男性とセックスする男性)を対象とする先行研究にならい、HIVと梅毒の郵送検査キット配布キャンペーンを実施しました。しかし、セックスワーカーの場合は、クラミジアや淋病をはじめとするより幅広い種類の検査ニーズがあります。さらに、NGOと保健行政、研究者たちが協働して長年持続的な啓発を続けてきたMSMのように、当事者たちが出会いや交流を求めて集まる商業エリアや啓発拠点となるコミュニティセンターもなく、またエイズ予防が自分たちにとって身近で深く関わる問題だという意識も乏しい状況にあります。

そのため、検査キットをセックスワーカーに届けること自体が容易ではありません。さらに、もし届けられたとしても、自宅で指に傷をつけて採血し、その検体を検査会社へ郵送し、後日インターネットで結果を確認するという一連の手続きを完了してもらうことは簡単ではありません。結果として、検査キットの配布には努めたものの、当初想定していたほどの研究成果を得ることはできませんでした。 

この研究成果が低く評価されたことが主な要因だったのかは分かりませんが、2025年末に公表された厚生労働省のエイズ対策政策研究の公募からは、セックスワーカーに焦点を当てた研究班がなくなっていました。2023~2025年度まで、年間2,600万円の予算が割り当てられていた研究班が、前触れもなく予算ゼロになったのです。

セックスワーカーを中心とする活動は、日本に限らずHIV/AIDS・性感染症予防以外で予算を獲得することが難しい状況にあります。そのため、エイズ対策政策研究の予算はセックスワーカーに焦点化した調査研究だけでなく、当事者活動にとっても重要な資金源となってきたのです。

コミュニティセンターどころか事務所すらない中、自宅を資材置き場として使いながら唯一専任に近いかたちで研究班の仕事を担っていたSWASHメンバーのひとりは、この研究班がなくなったことで突然失業しました。また、この研究班に関わっていた他のメンバーや研究者たちも、突然の予算ゼロという発表に大きなショックを受けました。

2025年末に公表された公募を見ると、PrEP(HIV感染を防ぐために予防薬を使う方法)に関する研究班の予算は、前年度の4倍ほど増額されていました。このことから、単純に全体的な予算削減を理由にセックスワーカーのための研究班がなくなったとは考えにくいです。もちろん、PrEPは重要な予防方法のひとつです。しかし、セックスワーカーの多くが女性であり、職業やジェンダーに起因する社会的な不利益や、医療アクセスの困難さを抱えやすいことを踏まえれば、PrEPの推進だけで当事者たちのセクシュアルヘルスを大きく改善できるとは思えません。

セックスワーカーに焦点を当てた研究班の公募は、今後また復活するかもしれません。しかし、セックスワーカーのための研究班がなくなった2026年度には、当事者たちのセクシュアルヘルスの実態把握だけでなく、健康増進に向けた予防啓発活動の実施も難しくなることは明らかです。厳しい状況ではありますが、セックスワーカーのための取り組みを今後も絶やさず続けていきたいと考えています。

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